ユーロに台頭するソブリンリスクとインフレリスク

南欧諸国への巨額の支援に国民の不満は大きいが、一方でユーロ体制によって最大の恩恵を受けているとも言われるドイツ。ユーロ維持に向け、難しい舵取りを迫られている。ギリシャ問題によるユーロ崩壊は世界的な経済危機へと発展しかねない。世界中がいま、ギリシャ危機とユーロの行方を見守っている。FX投資家必見の内容。

ドイツ主導で続く好景気

FXをしているがユーロ売り、ドル売り、円買いに悩んでいる。これは私だけではなく他のFX投資家もそうであろう。現在世界はクレジットリスクが台頭している。またギリシャ政府の債務不履行への懸念が世界的な株価の下落を引き起こしたギリシャショックから1年が過ぎた。しかし、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)に支援を要請したユーロ導入国は3力国に増えるなど、周辺国のソブリン危機に収束の気配はない。EU・IMFの支援にもかかわらず、これら3力国の国債利回りやソブリンCDSスプレッドの上昇も、格下げの動きも止まらない。

 

ユーロの金融イメージ

 

ただ、財政危機のドミノがスペインやイタリアなどにも波及するとの懸念は一時期に比べて沈静化している。特に大きく変わったのはスペインの評価。不動産バブル崩壊や硬直的な労働市場構造などEU・IMF支援下の3力国との共通項は多いが、貯蓄銀行改革や不透明とされる地方財政の開示強化、年金と労働市場の一体改革への姿勢を示すことで、信用の悪化に歯止めをかけることに成功した。

 

ドイツ主導で続く好景気政策金利は来年2%台へ

 

周辺国の問題が中核国の成長を阻害する事態も回避されている。ユーロ圏では2009年4〜6月期を底とする景気回復基調が続き、11年1〜3月期の成長率は前期比0.8%に再加速。ユーロ圏最大の経済国である、ドイツの力強い回復が近隣の国々に好影響を及ぼしている。

 

ドイツの実質GDP(国内総生産)は今年1〜3月期に世界同時不況前のピークを更新、稼働率もすでに長期平均(84.2%)を上回る86.8%に回復している。欧州委員会の設備投資調査によれば、ドイツの製造企業は11年に前年比24%の設備投資の拡大を計画している。昨年秋の前回調査の同15%から大幅に上方修正され、同調査開始以来、最も強気の見通しだ。失業率も3月には6.6%と東西ドイツ統一以来の低水準を更新中。所得環境も良好で個人消費を支えている。

 

ただIFO企業景況感指数やzEw指数など、ドイツ経済の代表的な指標は現状の強さと同時に先行きの減速を示唆するようになっており、本年後半は成長が鈍化する見通しだ。新興国需要の鈍化が輸出の伸びを抑制することになりそうだが、設備投資や個人消費など成長の裾野は広がっており、景気の拡大基調は維持されるだろう。ドイツの11年の成長率は10年の3.6%に続き、3%台に乗せる可能性も高く、11年もユーロ圏経済回復の牽引役を果たす。

 

欧州中央銀行(ECB)は4月、およそ2年にわたりI%で維持してきた政策金利を頴燧回引き上げた。ユーロ圏の4月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年比2・8%で、ECBが安定的なインフレ率と見なす「2%以下でその近辺」を大きく上回っている。エネルギーと食品価格の上昇が主因だが、ユーロ圏は労働市場などの構造が硬直的なため、物価の上振れが一時的なものにとどまらず、賃金や製品価格への転嫁を通じて定着する傾向がある。

 

ECBのトリシエ総裁は、5月の政策理事会後の記者会見では翌月の利上げを示唆する「強い警戒」という言葉こそ用いなかったが、金融は緩和的との基本認識やインフレ警戒自体を修正したわけではない。6月は四半期に1度の経済見通しの公表月であり、見通しの上方修正で7月利上げに布石を打つ可能性が濃厚だ。3ヵ月に1度、25幹皆ずつの利上げをH月のドラギ新総裁の誕生後も続け、12年早々には政策金利が2%に達しそうだ。

 

ECBはかねて、物価の安定を維持する金融政策(政策金利)と、金融システムの安定を図るための金額無制限・固定金利による流動性供給や国債市場の買い入れなどの非標準的政策とは連動しないとの立場を表明してきた。実際、4月利上げ後も固定金利・金額無制限の流動性供給を継続している。

 

ただ、資金供給残高は全体ではリーマンショック以前の水準まで減少。信用不安が続くEU・IMF支援下にある3力国の銀行では、ECBによる資金供給への深刻な「依存症」が浮き彫りになっており、ECBはこれらの国々の金融システム崩壊を防ぐう兄で重要な役割を担っていることがわかる。

流動性供給など非標準的政策で周辺国をサポート

ECBは、ギリシャショック時に創設された国債の買い入れプログラムを通じても、周辺国安定化の役割を担っている。ECBによる国債買い入れは大半がギリシヤショックから2ヵ月ほどの間に行われたもの。今年に入り、買い入れを行わない週が増えており、今後も新たな国債買い入れは見送る公算だ。ただ、5月中毎時点で761億?相当の買い入れ国債は償還まで保有する方針。オペの担保として受け入れた国債も含め、ECBが多額の周辺国国債を保有する状況が続く見通しだ。

 

ユーロ圏、EUの財務相は、6月14、15日に開催予定の次回会合でギリシヤへの追加支援を検討する。当初の計画は、12年にはギリシヤ政府が中長期国債の発行を再開、EU・IMFの支援は段階的に削減するものであったが、実現の可能性が事実上ゼロとなり、追加措置が必要となった。

 

追加支援に当たっては、まずはギリシヤ政府が一層の改革を約束しなければならない。景気悪化もあり、財政緊縮策が思いどおりの成果を上げられていない。そんな中、期待されているのは総額500億劈、GDP比20%の政府債務削減効果があるとされる、民営化・国有商業不動産売却の加速だ。ただ、計画が確実に成果を上げるには、民営化に対する労働組合の反発を抑え、不動産売却の妨げになる法規制や煩雑な手続きの見直しが必要で、政治的手腕が問われる。

 

「リプロファイリング」で適格要件外れる懸念もそのうえで、EUからの支援融資の条件見直しや追加融資が検討されることになるが、それと同時にギリシャ国債保有者に返済期限の延長を求める「リプロファイリング」の可能性が浮上している。ユーロ圏財務相会合(ユー・ログループ)のユンケル議長と欧州委員会の経済・通貨問題担当のレーン委員は、リプロファイリングの協議はギリシヤが十分な改革を約束したうえで必要と判断される場合に行うと順序づけている。詳細は不明だが、リプロファイリングは「自発的」同意の下で元本削減や金利の引き下げは行わずに返済期限のみを延長する「ソフトな債務再編」であり、「強制的」に大幅な元本削減などを行ラ大規模な債務再編と区別している。

 

12〜13年のギリシャ政府の資金需要のおよそ半分は中長期国債の償還資金であり、仮にすべての投資家がリプロファイリングに応じればギリシャが中長期国債を発行する必要はなくなる。ただ、政府債務残高の水準ぽ体は変わらず、いずれ大規模な債務再編が必要になるとの思惑を打ち消すことはできないだろう。

 

弊害もある。一つは、ECBが、たとえソフトな債務再編でも反対の立場で、リプロファイリングが行われると、ギリシャ国債がECBのオペの適格担保要件を満たさなくなるとしていることだ。ギリシャの銀行が重度のECB依存症にある状況で国債がECBの適格担保から外れることになれば、銀行システムには甚大な影響が及ぶ。

 

もう一つは他国への伝播のリスクだ。ギリシヤと同じくEU・IMFと野心的なプログラムの達成を約束しているアイルランドやポルトガルも同じ道をたどるとの思惑が広がってくると、市場復帰を妨げるだけでなく、スペインやイタリアの小康状態を脅かすおそれもある。支援の見返りに厳しい改革を迫られる国々と、支援負担がのしかかる国々。それぞれが国民の不満に向き合いながら、譲歩の余地を探り合い、債務問題解決の道筋を模索している。ギリシヤの追加支援問題がユーロ圏全体を巻き込むような金融不安の再燃につながらないよう、決着が図られるのか。当面最大の注目点といえるだろう。